一家に1枚「ウイルス」

ウイルスってなに?

ウイルス粒子の形を見てみよう!

お願い:当サイト内の画像やイラスト等の無断転載・無断使用はご遠慮ください。

ウイルス粒子

ウイルスは生物の細胞に感染し細胞の中で増殖した後、多くの場合、細胞外へ粒子として放出されます。インフルエンザウイルスの場合、一つの感染細胞から100から1万のウイルス粒子が放出されます(1)。ウイルス粒子の大きさや形はウイルスの種類によって様々です。

ウイルス粒子を観察する

多くのウイルスは細菌などの生物より小さく、可視化するには電子顕微鏡を使う必要があります。一方、通称、巨大ウイルスと呼ばれるウイルス(ミミウイルスなど)は光学顕微鏡で観察可能なものもあります。
私たちはウイルスを肉眼で観察することができないので電子顕微鏡などでウイルスを可視化することで、ウイルスがどのように感染し、増殖するのか、そして、どのように宿主に病気をもたらすのかを知ることができます。特徴的なウイルス粒子の形の観察は伝統的な診断法としても利用され、バイオテロや新興・再興感染症の発生初期における迅速検出法としても用いられています。近年は画像取得の自動化や高度な画像解析技術との組み合わせにより原子分解能に近いウイルス構造が解き明かされています。

電子顕微鏡

光学顕微鏡が可視光を用いて対象を観察するのに対し、電子顕微鏡は電子線を用いて対象を観察します。電子顕微鏡は、ウイルス粒子の形やウイルスが感染した細胞の構造の観察などに用いられています。電子顕微鏡には走査電子顕微鏡や透過電子顕微鏡、クライオ透過電子顕微鏡などの種類があります。

透過電子顕微鏡(写真提供:国立感染症研究所):画像
透過電子顕微鏡(写真提供:国立感染症研究所)

電子顕微鏡を用いたウイルス粒子の観察方法

ネガティブ染色はウイルス粒子の観察に頻繁に用いられます。ネガティブ染色では、土台となる支持膜を張ったグリッド(メッシュ)にウイルス粒子を吸着させ、重金属の染色液を吸着させて乾燥します。ウイルス粒子の周りに付着した染色液が電子線を散乱させることで、まるで影絵のようにウイルス粒子の形を観察できるようになります。適切な支持膜、ウイルス粒子の吸着方法、および染色方法はウイルスの種ごとに異なります。ウイルス粒子の形を保ったまま精製・濃縮する方法やウイルス粒子に似た細胞由来の小胞とを見分けるような、それぞれのウイルスに精通した知識と技術が必要になります。

ウイルス粒子の構造

このイラストは、正20面体カプシドをもつウイルスとらせん状のカプシドがエンベロープに包まれたウイルスの一例です。アデノウイルスやヒトパピローマウイルスなどは正20面体カプシドを有します。一方で、新型コロナウイルス(SARSコロナウイルス2)やインフルエンザウイルスなどはらせん状のカプシドを有します。

イラスト提供:藤田陽子 (京都大学):画像
イラスト提供:藤田陽子 (京都大学)

ウイルスの見え方

ウイルス粒子の見え方はどの種類の電子顕微鏡や手法を使うかで異なります。透過電子顕微鏡、走査電子顕微鏡、クライオ透過電子顕微鏡での見え方の違いを比べてみましょう。以下は全てA型インフルエンザウイルスの粒子を観察したものです。(写真提供:宮本翔(京都大学)、野田岳志(京都大学))

  • 透過電子顕微鏡によるインフルエンザウイルス粒子の超薄切片像

    透過電子顕微鏡によるインフルエンザウイルス粒子の超薄切片像:画像

    ウイルス粒子を含む感染細胞を薄く切り、透過電子顕微鏡で観察しています。ウイルス粒子の横断面が見えており、ウイルス粒子の表面だけでなく、粒子の中のヌクレオカプシドの形まで観察できます。A型インフルエンザウイルスのゲノムは8分節に分かれており、その8本(ヌクレオカプシド)が規則的に配置されていることがわかります。スケールバーは100 nm。

  • 走査電子顕微鏡によるインフルエンザウイルス感染細胞表面像

    走査電子顕微鏡によるインフルエンザウイルス感染細胞表面像:画像

    固定したウイルス感染細胞の表面に金属の薄い膜をコーティングし、表面をなぞるように電子線を照射します。これによって細胞やウイルス粒子の表面から生じる二次電子の強弱を取得することで、立体的でコントラストの高い感染細胞表面像を観察することができます。新たに作られたインフルエンザウイルスの子孫粒子が細胞から出芽する様子が見えています。1つの感染細胞から多くの子孫ウイルスが出芽することや球状だけでなくひも状のウイルス粒子も存在することがわかります。スケールバーは1 µm (1000 nm)。

  • クライオ透過電子顕微鏡によるインフルエンザウイルス粒子の透過像

    走査電子顕微鏡によるインフルエンザウイルス感染細胞表面像:画像

    瞬間凍結によりウイルス粒子をグリッド内のガラス状の薄い氷の膜に閉じ込めて、クライオ透過電子顕微鏡で観察しています。ウイルスゲノムを有しない粒子は少し小さいことがわかります。染色液を用いないためコントラストは低いものの、ウイルス粒子の中身まで観察することができます。グリッドを傾けて様々な角度から撮影すること(トモグラフィー法)や、様々な向きの標的分子の画像をたくさん撮影し解析すること(単粒子解析法)で、ウイルス粒子の構成成分の立体的な形を知ることもできます。スケールバーは100 nm。

電子顕微鏡以外で構造を知る

ウイルスの成分や粒子の構造を知るために、電子顕微鏡による観察以外の手法を使うこともあります。例えば、ウイルス粒子表面や内部構造の凹凸を観察する原子間力顕微鏡による解析や、タンパク質単体やタンパク質と核酸などからなる複合体の立体構造を決定するX線結晶構造解析などです。

ウイルス粒子の多様な形

ウイルスの種類によって粒子の形は様々です。球状、正20面体、ひも状、棒状、まるで宇宙船のような形、まるでレモンのような形、光学顕微鏡でも見える巨大な粒子まで、様々な形のウイルス粒子が見つかっています。

  • 球状のウイルス粒子の例:SARSコロナウイルス2

    球状のウイルス粒子の例:SARSコロナウイルス2:画像
    (写真提供:国立感染症研究所)

    エンベロープから突き出ているスパイクタンパク質により、粒子の見た目があたかも王冠のようです(「コロナ(corona)」はギリシャ語で「王冠」を意味します(1))。

  • 正20面体のウイルス粒子の例:アデノウイルス

    正20面体のウイルス粒子の例:アデノウイルス:画像
    (写真提供:国立感染症研究所)

    アデノウイルスのタンパク質が対称性をもって集合することで、正20面体の構造となります。これまで多くの正20面体のウイルス粒子の構造が解かれており、その数は200種類以上です(1)。

  • ひも状のウイルス粒子の例:エボラウイルス

    ひも状のウイルス粒子の例:エボラウイルス:画像
    (写真提供:京都大学、野田岳志)

    エボラウイルスはフィロウイルス科に分類されます。「フィロ(filo)」はラテン語で「糸を紡ぐ」を意味する言葉(1)で、エボラウイルス粒子はU字状、ひも状、ぜんまい状等、多形性を示します(2)。

  • 棒状のウイルス粒子の例:タバコモザイクウイルス

    棒状のウイルス粒子の例:タバコモザイクウイルス:画像
    (出典:Wikimedia Commons、パブリックドメイン)

    タバコモザイクウイルスは世界で初めて電子顕微鏡で撮影されたウイルスです。植物に感染するウイルスで、細長い棒状をしています。

  • まるで宇宙船のような形のウイルス粒子の例:バクテリオファージT4

    まるで宇宙船のような形のウイルス粒子の例:バクテリオファージT4:画像
    (写真:Louisa Howard氏による撮影、Cell Image Library)

    細菌(バクテリア)に感染するウイルスはバクテリオファージと呼ばれ、バクテリオファージT4は正20面体の頭部とそこから伸びる尾部などから構成されます。

  • まるでレモンのような形のウイルス粒子の例:古細菌ウイルス

    まるでレモンのような形のウイルス粒子の例:古細菌ウイルス:画像1 まるでレモンのような形のウイルス粒子の例:古細菌ウイルス:画像2
    写真提供:望月智弘(東京工業大学/神戸大学))

    写真は、100℃近い熱水から見つかった超好熱性古細菌Aeropyrum属(増殖温度90℃)に感染するウイルスです。古細菌ウイルスの粒子は、レモン、ボトル、バネなど様々な形をしていることが特徴です。中でも、まるでレモンのような形の紡錘(spindle)型ウイルス粒子は、熱水系のみならず、塩が析出するような好塩性古細菌や、我々にも身近な土壌・水圏から見つかるアンモニア酸化古細菌からも見つかっています。また、これらの紡錘型ウイルス粒子は細胞の外に放出された後に、両端が伸びることもたびたび観察されています。一方で、細菌や真核生物を宿主とするウイルスからは、このような紡錘型ウイルスは現時点で1つも発見されていないことから、古細菌ウイルスを特徴づける形状といえます。

  • 巨大なウイルスの例:ミミウイルス

    電子顕微鏡で観察したミミウイルス:画像
    電子顕微鏡で観察したミミウイルス
    (写真提供:緒方博之(京都大学)、疋田弘之(京都大学)、京都大学医学研究科電子顕微鏡室)
    光学顕微鏡で観察したミミウイルス:画像
    光学顕微鏡で観察したミミウイルス(中央にある大きな細胞はウイルスが感染したアメーバ細胞で、その周りの小さな微粒子がミミウイルスです)
    (写真提供:高橋迪子(高知大学)、舘石尚久(高知大学))

    1892年のウイルスの発見から100年以上経った2003年に、これまでの常識を覆すような巨大なウイルス(通称、巨大ウイルス)が見つかりました。巨大ウイルスの発見以前は、ウイルスを可視化するには電子顕微鏡を用いる必要がありましたが、巨大ウイルスは光学顕微鏡でも観察可能な大きさです。以下の写真はミミウイルスの電子顕微鏡写真と光学顕微鏡写真です。

ヒトに感染するウイルスの電子顕微鏡像ライブラリ

  • SARSコロナウイルス

    ARSコロナウイルス:画像
    (画像提供:国立感染症研究所)

    重症急性呼吸器症候群(SARS)の原因ウイルス。SARS関連コロナウイルスには、2002年から2003年にかけて流行したSARSの原因ウイルスであるSARSコロナウイルス や、2019年に始まった新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックの原因ウイルスであるSARSコロナウイルス2 (SARS-CoV-2)などが含まれる。コロナウイルス科に属する1本鎖プラス鎖RNAウイルス。ウイルス粒子は直径100から200 nmほどでらせん状のカプシドがエンベロープに包まれている(2、3)。スパイクタンパク質がエンベロープから突き出ており、粒子の見た目があたかも王冠のよう(「corona」はギリシャ語で「王冠」を意味する(1))。スケールバーは100 nm。

  • 日本脳炎ウイルス

    日本脳炎ウイルス:画像
    (画像提供:国立感染症研究所)

    重篤な急性脳炎である日本脳炎の原因ウイルス。日本脳炎ウイルスが感染したブタ等を蚊が吸血し、その後ヒトを吸血することにより、ヒトが感染する。感染症流行予測調査事業では、全国各地のブタ血清中の日本脳炎抗体保有状況を測定し、蔓延状況およびウイルスの活動状況を調査している(1)。日本脳炎は、わが国では北海道を除き、西日本を中心に広範囲な分布がみられ、毎年数例の報告がある(2、3)。ウマとヒトでは脳炎の原因となり、ブタでは妊娠ブタの死流産の原因となる(4)。フラビウイルス科に属する1本鎖プラス鎖RNAウイルス。ウイルス粒子は球状で直径50 nmほど、正20面体カプシドがエンベロープに包まれている(5)。

  • デングウイルス

    デングウイルス:画像
    (画像提供:国立感染症研究所)

    突然の発熱で始まり頭痛・眼窩痛・筋肉痛・関節痛などを伴うデング熱の原因ウイルス(1)。血漿漏出と出血傾向を主症状とするデング出血熱を引き起こすことも(1)。2014年の夏季には輸入症例により持ち込まれたと考えられるウイルスにより150例以上の国内流行が発生した(1)。日本脳炎ウイルスと同じフラビウイルス科に属する1本鎖プラス鎖RNAウイルス。蚊媒介性ウイルス。ウイルス粒子は球状で直径50 nmほど、正20面体カプシドがエンベロープに包まれている(2)。

  • ウエストナイルウイルス

    ウエストナイルウイルス:画像
    (画像提供:国立感染症研究所)

    ウエストナイル熱(3〜6日間程度の発熱、頭痛、背部痛、筋肉痛、筋力低下、食欲不振など)やウエストナイル脳炎の原因ウイルス(1)。海外で感染し国内で発症した例は見られるが、日本で感染した症例は現在なく、アフリカ、ヨーロッパ、西アジアなど広い地域に分布している(1)。フラビウイルス科に属する1本鎖プラス鎖RNAウイルス。蚊媒介性ウイルス。ウイルス粒子は球状で直径50 nmほど、正20面体カプシドがエンベロープに包まれている(2)。矢印はウイルス粒子を示す。

  • ジカウイルス

    ジカウイルス:画像
    (画像提供:国立感染症研究所)

    発熱、斑状丘疹性発疹、関節痛・関節炎、結膜充血が半数以上の症例にみられるジカウイルス感染症の原因ウイルス(1)。妊娠中に感染すると、胎児に先天性障害をきたすことがある(2)。海外で感染し国内で発症した例は見られるが、日本国内で感染した症例は現在ない(2)。フラビウイルス科に属する1本鎖プラス鎖RNAウイルス。蚊媒介性ウイルス。ウイルス粒子は球状で直径50 nmほど、正20面体カプシドがエンベロープに包まれている(3)。

  • チクングニアウイルス(写真は人工的に合成したウイルス様粒子)

    チクングニアウイルス(写真は人工的に合成したウイルス様粒子):画像
    (画像提供:国立感染症研究所)

    発熱と関節痛などを伴う急性熱性疾患のチクングニア熱の原因ウイルス(1)。輸入症例は報告されているが、日本国内で感染した症例は現在ない(1)。トガウイルス科に属する1本鎖プラス鎖RNAウイルス。蚊媒介性ウイルス。ウイルス粒子は球状で直径65から70 nmほど、正20面体カプシドがエンベロープに包まれている(2)。

  • 風疹ウイルス

    風疹ウイルス:画像
    (画像提供:国立感染症研究所)

    風疹(発熱、発疹、リンパ節腫脹を特徴とするウイルス性発疹症(1))の原因ウイルス。風疹に対する免疫が不十分な妊婦が風疹ウイルスに感染すると、先天性風疹症候群の子どもが生まれることがある(1)。飛沫感染で、ヒトからヒトへ感染が伝播する(2)。風疹への免疫がない集団において、1人の風疹患者から5~7人にうつす強い感染力を有する(2)。マトナウイルス科に属する1本鎖プラス鎖RNAウイルス。ウイルス粒子は球状で直径60〜70 nmでエンベロープを有する(3)。

  • ノロウイルス

    ノロウイルス:画像
    (画像提供:国立感染症研究所)

    嘔吐、下痢などの急性胃腸炎症状であるノロウイルス感染症の原因ウイルス(1)。カリシウイルス科に属する1本鎖プラス鎖RNAウイルス。カリシ(calici)という語はラテン語のcalix(カップ)に由来し、電子顕微鏡で粒子表面にカップ状のくぼみが観察されることによる(2)。ウイルス粒子は直径38から40 nmほどの球状で、カップ状のくぼみが正20面体カプシド上にあり、エンベロープをもたない(3)。ウイルス粒子は胃液の酸度や60℃程度の熱には抵抗性を示す(1)。ウイルス粒子の感染性をなくすには、次亜塩素酸ナトリウムなどで不活化するか、85℃以上で1分以上加熱する必要があるとされている(1)。

  • エンテロウイルス71

    エンテロウイルス71:画像
    (画像提供:国立感染症研究所)

    手足口病(口の中や手足などに水疱性の発疹が出る感染症)の原因ウイルスの一つ(1)。ピコルナウイルス科に属する1本鎖プラス鎖RNAウイルス。ピコルナ(picorna)は、極めて小さい(ピコ = pico)RNA(ルナ = rna)を意味する(2)。ウイルス粒子は直径30 nmほどの球状の正20面体でエンベロープをもたない(3)。同じピコルナウイルス科に属する口蹄疫ウイルスは、動物感染症を引き起こす初めての濾過性病原体(ウイルス)として1898年に発見された(4)。

  • E型肝炎ウイルス

    E型肝炎ウイルス:画像
    (画像提供:国立感染症研究所)

    ウイルス性の肝炎であるE型肝炎の原因ウイルスの一つ(1)。生または加熱不足のブタ、イノシシ、シカなどの肉や内臓が感染源の一つ(2)。ヘペウイルス科に属する1本鎖プラス鎖RNAウイルス。「へペ(hepe)」はE型肝炎ウイルス(Hepatitis E virus)の名前に由来する(3)。ウイルス粒子は直径32から34 nmほどの正20面体でエンベロープをもたない(3)。ウイルス粒子の形はカリシウイルス科のウイルスに似ている。

  • ムンプスウイルス

    ムンプスウイルス:画像
    (画像提供:国立感染症研究所)

    流行性耳下腺炎(通称、おたふくかぜ)の原因ウイルス(1)。パラミクソウイルス科に属する1本鎖マイナス鎖RNAウイルス。ウイルス粒子は直径100~600 nm(1)の不規則な球状で、らせん状のカプシドがエンベロープに包まれている(2)。

  • SFTSウイルス

    SFTSウイルス:画像
    (画像提供:国立感染症研究所)

    重症熱性血小板減少症候群(SFTS)の原因ウイルス。SFTSは、発熱、消化器症状(嘔気、嘔吐、腹痛、下痢、下血)を特徴とし、重症例では多臓器不全に陥る(1、 2)。主にウイルスを保有しているマダニに咬まれることによりヒトやネコなどが感染し、発症する(1、3)。感染した動物からヒトに感染した例も報告される(3)。フェヌイウイルス科に属する1本鎖マイナス鎖RNAウイルス。3分節のRNAをゲノムとしてもつ。ウイルス粒子は直径80から100 nmほどの球状でエンベロープを有する(4)。

  • A型インフルエンザウイルス(H1N1亜型) pdm09

    A型インフルエンザウイルス(H1N1亜型) pdm09:画像
    (画像提供:国立感染症研究所)

    2009年に起きたインフルエンザの世界的流行の原因ウイルスであり、2023年現在は季節性インフルエンザとして流行を続けている(1)。オルソミクソウイルス科に属する1本鎖マイナス鎖RNAウイルス。A型インフルエンザウイルスは8分節のRNAをゲノムとしてもつ。ウイルス粒子は直径80から120 nmの球状、または1から2 µmのひも状の形態をしており(2)、らせん状のカプシドがエンベロープに包まれている(3)。A型インフルエンザはウイルス粒子表面に赤血球凝集素(HA)とノイラミニダーゼ(NA)という糖タンパク質をもち、これらが抗体による感染防御の標的抗原となっている(4)。抗原性の違いから、HAは18亜型、NAは11亜型に分けられる(2)。このウイルスはH1HAとN1NAをもつためH1N1亜型と分類される。

  • A型インフルエンザウイルス(H3N2亜型)

    A型インフルエンザウイルス(H3N2亜型):画像
    (画像提供:国立感染症研究所)

    1968年に始まり世界的に流行した香港インフルエンザを引き起こしたウイルスで、現在も季節性インフルエンザとして流行し続けている(1)。H3HAとN2NAをもつためH3N2亜型と分類される。ウイルス粒子は直径80から120 nmの球状、または1から2 µmのひも状の形態をしており(2)、らせん状のカプシドがエンベロープに包まれている(3)。

  • B型インフルエンザウイルス

    B型インフルエンザウイルス:画像
    (画像提供:国立感染症研究所)

    インフルエンザの原因ウイルスの一つ。インフルエンザウイルスには4つの型があり、A型、B型、C型、D型に分類される。A型とB型は季節性インフルエンザの原因となる(1)。A型インフルエンザウイルスは8分節、B型インフルエンザウイルスは7分節のRNAをゲノムとしてもつ。オルソミクソウイルス科に属する1本鎖マイナス鎖RNAウイルス。ウイルス粒子は直径80から120 nmの球状、または1から2 µmのひも状の形態をしており(2)、らせん状のカプシドがエンベロープに包まれている(3)。

  • A型インフルエンザウイルス(H7N9亜型)

    A型インフルエンザウイルス(H7N9亜型):画像
    (画像提供:国立感染症研究所)

    ニワトリなどの鳥類の感染症である鳥インフルエンザの原因ウイルス(1)。H5亜型とH7亜型は高病原性鳥インフルエンザと低病原性鳥インフルエンザの原因となる(2)。鳥インフルエンザ(H7N9)は検疫感染症に指定されている(3)。ウイルス粒子は直径80から120 nmの球状、または1から2 µmのひも状の形態をしており(4)、らせん状のカプシドがエンベロープに包まれている(5)。

  • エボラウイルス

    エボラウイルス:画像
    (画像提供:京都大学 野田岳志)

    エボラウイルス病(エボラ出血熱)の原因ウイルス。出血症状は以前考えられていたよりもまれなため、病名がエボラ出血熱からエボラウイルス病に代わった(1、2)。エボラウイルス病は、全身倦怠感、発熱(38度以上の高熱)、頭痛、筋肉痛、のどの痛みなどの症状で始まり、続いて嘔吐や下痢などの消化器症状、次いで内臓機能の低下が見られる(2)。フィロウイルス科に属する1本鎖マイナス鎖RNAウイルス。ウイルス粒子は短径が80から100 nm、長径が700から1,500 nmほどでエンベロープを有し、内部にらせん状のカプシドをもつ(1、3)。U字状、ひも状、ぜんまい状等、多形性を示す(1)(フィロウイルス科の「フィロ(filo)」はラテン語で「糸を紡ぐ」を意味する(4))。スケールバーは1,000 nmを示す。

  • ロタウイルス

    ロタウイルス:画像
    (画像提供:国立感染症研究所)

    乳幼児期(0~6歳ころ)にかかりやすい急性の胃腸炎であるロタウイルス感染症の原因ウイルス(1)。レオウイルス科に属する2本鎖RNAウイルスで10から12分節に分かれたゲノムをもつ。レオ(Reo)は、Respiratory Enteric Orphan(気道と腸内のみなし子)の頭文字で、ウイルス(子)が先に見つかり、病気(親)が見つからなかったことに由来する(2)。ウイルス粒子は直径80〜100 nmほどの球状、正20面体であり、エンベロープをもたない(3)。

  • ヒト免疫不全ウイルス1型(HIV-1)

    ヒト免疫不全ウイルス1型(HIV-1):画像
    (画像提供:国立感染症研究所)

    免疫不全が生じ、日和見感染症や悪性腫瘍が合併した状態である、後天性免疫不全症候群(AIDS)の原因ウイルス(1)。レトロウイルス科に属する1本鎖プラス鎖RNAウイルス。レトロはラテン語で「逆」を意味し、レトロウイルスがもつ逆転写酵素がRNAを鋳型としDNAへ逆に転写することに由来する(2)。ウイルス粒子は直径110 nmほどの球状で、ウイルスゲノムを含む円錐様の形をしたカプシドをエンベロープが覆う構造をしている(3、4)。

  • ヒトT細胞白血病ウイルス(HTLV-1)

    ヒトT細胞白血病ウイルス(HTLV-1):画像
    (画像提供:国立感染症研究所)

    成人T細胞白血病・リンパ腫、HTLV-1関連脊髄症やHTLV-1ぶどう膜炎などのHTLV−1感染症の原因ウイルス(1)。感染者の約5%にHTLV-1関連疾患が発症することがある(2)。HTLV-1関連疾患である成人T細胞白血病・リンパ腫(ALT)は1977年に高月清博士らにより最初に報告され、1981年にはHTLV-1がATLの原因ウイルスであることが日沼頼夫博士らにより明らかにされた(1)。レトロウイルス科に属する1本鎖プラス鎖RNAウイルス。ウイルス粒子は直径100 nmほどのほぼ球状の粒子で、ウイルスゲノムを含むカプシドをエンベロープが覆う構造をしている(1)。

  • 天然痘(痘瘡)ウイルス

    天然痘(痘瘡)ウイルス:画像
    (画像提供:国立予防衛生研究所/現 国立感染症研究所)

    天然痘(痘瘡)の原因ウイルス。世界保健機関(WHO)は1980年5月、天然痘の世界根絶宣言を行った(1)。ポックスウイルス科に属する2本鎖DNAウイルス。ポックスは天然痘に見られる特徴的な膿疱(pocks)に由来する(2)。ウイルス粒子は200から300 nmほどでエンベロープを有する(1)。本写真は天然痘根絶宣言前の1974年に撮影されたもの。

  • エムポックス(サル痘)ウイルス

    エムポックス(サル痘)ウイルス:画像
    (画像提供:国立感染症研究所)

    発熱、頭痛、リンパ節腫脹、筋肉痛などが1~5日続き、その後発疹が出現する急性発疹性疾患であるエムポックス(サル痘)の原因ウイルス(1)。齧歯類をはじめ、サルやウサギなどウイルスを保有する動物との接触によりヒトに感染する(2)。感染した人や動物の皮膚の病変・体液・血液との接触(性的接触を含む)、患者との接近した対面での飛沫への長時間の曝露、患者が使用した寝具等との接触等により感染する(2)。ポックスウイルス科に属する2本鎖DNAウイルス。ウイルス粒子の長径は300 nmを超え、形態はレンガ状でエンベロープを有する(1)。

  • 単純ヘルペスウイルス1型(HSV-1)

    単純ヘルペスウイルス1型(HSV-1)ウイルス:画像
    (画像提供:国立感染症研究所)

    口腔内もしくは周囲にできる、疼痛を伴う水疱や潰瘍などの症状を特徴とする口腔ヘルペス(通称、口唇ヘルペス)の原因ウイルス(1)。性器ヘルペスウイルス感染症を引き起こすことも(1)。稀に、脳炎や角膜炎(眼感染症)のように深刻な合併症を引き起こす(1)。ヘルペスウイルス科に属する2本鎖DNAウイルス。ウイルス粒子は直径200 nmほどのほぼ球状で、正20面体のカプシドがエンベロープで包まれている(2)。

  • 単純ヘルペスウイルス2型(HSV-2)

    単純ヘルペスウイルス2型(HSV-2):画像
    (画像提供:国立感染症研究所)

    単一または複数の水疱や性器潰瘍と呼ばれるただれを特徴とする性器ヘルペスウイルス感染症(通称、性器ヘルペス)の主な原因ウイルス(1)。ヘルペスウイルス科に属する2本鎖DNAウイルス。ウイルス粒子は直径200 nmほどのほぼ球状で、正20面体のカプシドがエンベロープで包まれている(2)。

  • ヒトパピローマウイルス(HPV)

    ヒトパピローマウイルス(HPV):画像
    (画像提供:国立感染症研究所)

    ヒトパピローマウイルス感染症の原因ウイルス。ヒトパピローマウイルスは、子宮頸がんを始め、肛門がん、膣がんなどのがんや尖圭コンジローマ(性器周辺にできる腫瘍)等多くの病気の発生に関わる(1)。ヒトパピローマウイルスには100種類以上の型があり、少なくともそのうちの13種類に発がん性(高リスク型としても知られている)がある(2)。パピローマウイルス科に属する2本鎖DNAウイルス。ウイルス粒子は直径50から55 nmほどの正20面体でエンベロープをもたない(3)。