一家に1枚「ウイルス」

ウイルス感染症と社会

産業動物のウイルス感染症

畜産業を脅かすウイルス

ウシやブタ、ニワトリなどもウイルスに感染し、病気になることがあります。産業動物のウイルス感染症は、畜産業に大きな経済的被害を与えます。畜産業で問題となるウイルス感染症はたくさんありますが、今回は日本の畜産の脅威となっている産業動物の感染症を引き起こす3つのウイルスを紹介します。

口蹄疫ウイルス

口蹄疫ウイルスはピコルナウイルス科アフトウイルス属のプラス鎖1本鎖RNAウイルスで、エンベロープというウイルスを包む膜をもたないノンエンベロープウイルスです。ウシやブタのほか、ヒツジやラクダなど広く偶蹄目の動物に感染します。ヒトへの感染性は極めて低く、濃厚接触による軽度の感染例がごく稀に報告されているのみです。感染した動物は、名前の通り口や蹄に水疱ができたり、多量のよだれを出したりします。
日本における最も大きな口蹄疫による被害は、2010年の宮崎県での発生事例です。宮崎県内の297もの農場で発生し、約30万頭のウシやブタが殺処分されました。また口蹄疫の拡がりを防ぐため県内での人の移動も制限され、大きな経済的損失を生んだだけでなく、県民生活にも大きな影響を及ぼしました。
ちなみに口蹄疫ウイルスは世界で初めて発見された動物ウイルスです。1898年ドイツの医学者レフラーとフロッシュにより、口蹄疫の原因が細菌より小さい濾過性病原体(後のウイルス)であることが明らかにされました。

豚熱ウイルス

豚熱は、ブタの耳や下腹部、四肢等における紫斑や高熱などを特徴とする熱性伝染病です。豚熱は以前、「豚コレラ」とよばれました。日本は2007年4月に豚熱の清浄国としてOIE(国際獣疫事務局、現在のWOAH)に認定されましたが、2018年から日本で再流行しています。
豚熱の原因は豚熱ウイルスです。豚熱ウイルスはフラビウイルス科ペスチウイルス属に属するプラス鎖一本鎖RNAウイルスで、強い伝播力と高い致死性があります。このウイルスはイノシシにも感染することができ、野生のイノシシを介してブタに伝播する可能性があります。このウイルスがヒトに感染し病気を起こしたという報告は今のところありません。空港などにおける食品の検疫で豚肉の加工品(ハムやソーセージなど)からも検出されています。

鳥インフルエンザウイルス

鳥インフルエンザウイルスは、オルソミクソウイルス科に属するA型インフルエンザウイルスのうち、鳥に感染するウイルスの総称です。自然宿主はカモなどの野生の水鳥であり、感染鳥の糞便に排泄されたウイルスがニワトリなどに感染し、病気を引き起こします。高病原性鳥インフルエンザの場合は非常に高い致死性を示し、その流行は卵や鶏肉の値上がりの一因となります。鳥インフルエンザウイルスが直接ヒトにうつることはほとんどありませんが、ときにヒトに伝播し病気を引き起こすことがあります。また、ブタやヒトのインフルエンザウイルスなどと遺伝子再集合(注1)を起こし、ヒトに感染性の高い新しいウイルスが出現する場合もあります。

どうすれば防げる?みなさんに気をつけて欲しいこと

生産者は農場へ病原体を持ち込まない・感染を拡げないために様々な努力をしています。みなさんも感染症を拡げないために、次のことに気をつけましょう。

  • ・むやみに動物に近づかないようにしましょう。
  • ・動物と触れ合うときには触れ合う前と後に手洗いをしましょう。
  • ・人の靴や車のタイヤなどに付着した病原体を持ち込まないために、消毒液で必ず消毒をしましょう。
  • ・海外から帰国後1週間は農場(注2)へ近づかないようにしましょう。
口蹄疫の症状:画像
図1 口蹄疫の症状:
症状は様々あるが、口や鼻、蹄にみられる水疱や潰瘍、多量のよだれが特徴的である。
口蹄疫の症状:画像
図2 豚熱の症状:
豚熱ウイルスに感染した豚では、高熱、四肢や耳の紫斑、うずくまりなどがみられる。
口蹄疫の症状:画像
図3 鳥インフルエンザウイルスに感染したニワトリ:
とさかのむくみや血色の悪化(チアノーゼ)、元気消失がみられる