一家に1枚「ウイルス」

人類との関わりの歴史

種痘はワクチンの先駆け

エドワード・ジェンナーはワクチン開発のパイオニア

エドワード・ジェンナーは、1749年にイギリスのバークレイという乳牛の放牧が盛んな酪農地帯で生まれました。古くからイギリスの酪農地帯では、牛の皮膚に痘疱ができる伝染病(牛痘)がたびたび流行していました。牛痘ウイルスに感染した乳牛の乳房には多数の痘疱ができます。乳搾りをする際にこの痘疱に触れると、手の傷から牛痘ウイルスに感染し水疱を発症、それから2〜3週間後にはかさぶたとなって治癒するという事例が知られていました。ジェンナーはこの牛痘に罹患した乳搾りを行う人たちは天然痘にかかりにくいことに着目し、牛痘にかかると天然痘に対する抵抗性ができるのではないかと考えました(1)。1796年の実験において、被験者となったのはジェームス・フィリップスというジェンナー家の使用人の少年でした。ジェンナーは乳搾りを行う女性にできた水疱から液体を取り出し、取り出した液体の一部をジェームス少年の腕につけた傷から接種するという実験を行いました(注1)。こうしたやり方でジェンナーは何度も実験を繰り返し、その過程で少年に接種する水疱の液体の量を徐々に増やしていきました。接種から6週間後、ジェンナーは少年に天然痘を接種し、その後少年が天然痘の症状を示さないことを見出しました。これが、種痘の発明、ひいては天然痘ワクチン開発のきっかけになりました。
その後、天然痘ワクチンは世界中で使用されるようになり、ジェンナーによる種痘の実験から約200年後の1980年5月、世界保健機関(World Health Organization; WHO)は天然痘の世界根絶宣言を行いました。以降、現在に至るまで世界中で天然痘患者の発生はありません。天然痘は国際社会の協力により人類が初めて根絶したウイルス感染症です。

「種痘を行うジェンナー」(Wikimedia Commons、作者:Ernest Board、パブリックドメイン):画像
「種痘を行うジェンナー」(Wikimedia Commons、作者:Ernest Board、パブリックドメイン)