一家に1枚「ウイルス」

自然環境中のウイルス

ヒトの8%はウイルスでできている?

内在性ウイルスとは?

私たちヒトを含めた生物はDNAからなるゲノムを遺伝情報として持ちます。ゲノムには発生や生命の維持に必要な遺伝子の情報などがコードされており、ヒトゲノムの場合は約30億塩基対のDNA配列で構成されています。そのうち、発生や生命の維持にかかわるタンパク質をコードする配列は1から2%程度と言われていますが、なんと約8%がウイルスに由来する配列だと考えられています(1)。このようなウイルス由来の配列は、内在性ウイルスと呼ばれています(注1)。これほど大量のウイルス由来のDNA配列が私たちのゲノムにあるとは驚きですね。

哺乳類の進化と内在性ウイルス:画像
哺乳類の進化と内在性ウイルス

私たちはウイルスを取り込んで進化してきた

私たちのゲノムの中にある内在性ウイルスは一体何をしているのでしょうか?実は、私たちが生まれてくるときにとても重要なはたらきをしています。ヒトを含む哺乳類の多くは、妊娠の際に母親の子宮の中で胎盤を形成します。この胎盤を通じて胎児(胎仔)と酸素や栄養などのやりとりをします。胎盤の形成には、シンシチンという遺伝子が関わっていますが、実はこの遺伝子は大昔のレトロウイルスというウイルスの「env」という遺伝子に由来します(2)。しかも面白いことに、ウイルスのenv遺伝子の「膜を融合する」機能が巧みに転用されているのです(3)。胎盤形成以外にも、皮膚の保湿(4)やウイルス感染防御(5)など、内在性ウイルス由来の遺伝子が様々な生理現象に関与していることが知られており、今も盛んに内在性ウイルスの機能解明に向けた研究が行われています。