自然環境中のウイルス
ウイルスに寄生する短いRNAの驚きの生き残り戦略
ウイルスに寄生するサテライトRNA
ウイルスは生物に寄生(注1)しますが、さらにそのウイルスに寄生するものも存在します。植物に感染し病気を引き起こすキュウリモザイクウイルス(cucumber mosaic virus; CMV)の粒子には、サテライトRNAと呼ばれるCMVの複製には関係のないRNA分子がときどき見つかります。このサテライトRNAはおよそ330~400塩基の非常に短いRNAで、タンパク質をつくらないノンコーディングRNAです。サテライトRNAは寄生するウイルスの複製機構を借りて増殖します。CMVとそれに寄生するサテライトRNAは全く異なる塩基配列を持つため、サテライトRNAがどこからやってきたのか謎に包まれています。
サテライトRNAは植物の色を変化させる
サテライトRNAがCMVに寄生すると、感染した植物の病気を深刻にしたり軽減させたりします。サテライトRNAの1つ、YサテライトRNAが寄生したCMVは、タバコに感染すると葉を非常に鮮やかな黄色に変化させます。CMVの感染はアブラムシによって媒介されますが、実はアブラムシは黄色が大好きです。すなわち、YサテライトRNAによって鮮黄色になった植物にアブラムシは強く引き寄せられるため、自らを周囲に伝搬されやすくしているのです。

サテライトRNAはアブラムシの体色も変化させ、翼を授ける
YサテライトRNAが変化させるのは、植物の色だけではありません。アブラムシの色も緑色から赤色に変化させ、さらに翅を形成させます。これらの現象には、RNAサイレンシングというメカニズムが関わっており、YサテライトRNAがアブラムシの体内に入ることで、翅の形成を促進する遺伝子の発現を直接制御していることが明らかにされています。つまり、YサテライトRNAは、植物の色を変化させることによりアブラムシを引きつけ、アブラムシに翅を生やして自らを広く拡散できるようにするという、驚きの“生き残り戦略”を持っているのです。緑から黄、そして黄から赤。まるで信号のようです。
