ウイルス感染症と社会
植物ウイルス病による被害
植物ウイルス病
植物がウイルスに感染すると病気になることがあります。病気になると、モザイク、萎縮、黄化、葉巻、輪紋、壊疽などの病徴が現れ、枯死することがあります。穀類や野菜類、花き類、果樹類などがウイルスに感染すると品質や収量が低下するなど、農業に大きな影響を与えます。植物のウイルス病による被害額は世界で年間およそ300億USドルと推定されていますが、ウイルス病と認識されていない場合もあることから潜在的な被害はもっと大きいと考えられています(1)。
伝染方法
植物細胞は細胞壁で覆われているため、植物ウイルスは自身の力だけで外部から細胞内に侵入することができません。そのため植物ウイルスは昆虫などによって媒介されます (下表)。
伝染方法 | 説明 | 植物ウイルス病の例 |
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媒介生物による伝染 | ・アブラムシ類、ウンカ類、コナジラミ類、ダニ類などが
ウイルス感染植物を吸汁すると、ウイルスを獲得し媒介します。 ・土壌中に生息する特定の菌がウイルスを媒介します。 |
イネ縞葉枯病 トマト黄化葉巻病 メロンえそ斑点病 |
種子による伝染 | 種子の内部もしくは外部のウイルスが感染し、ウイルスが次世代に伝染します。 | トマトモザイク病 キュウリ緑斑モザイク病 |
栄養繁殖による伝染 | ウイルス感染植物を種いも、球根、挿し木などで栄養繁殖させるとウイルスが伝染します。 | ジャガイモ塊茎えそ病 ニンニクモザイク病 |
接木による伝染 | 果樹類や果菜類の栽培には、接木という手法がよく用いられますが、
接木に用いる穂木や台木がウイルスに感染していると、ウイルスが伝染します。 |
カンキツモザイク病 ブドウリーフロール病 |
接触による伝染 | ・農器具を用いた植物の管理作業で、ウイルス感染植物から健全植物にウイルスが伝染します。
・土壌や植物の根にウイルスが残り、植物を植えるとウイルスが伝染します。 |
トマトモザイク病 ピーマンモザイク病 タバコモザイク病 |
防除方法
植物ウイルスに対して直接的に効果を示す薬剤はないため、植物が一度ウイルスに感染すると、ウイルス病を治療する手段がないのが現状です。そのため、ウイルス感染を未然に防ぐことが重要です。具体的には、以下のような防除対策が行われています。
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1. ウイルス病を媒介する生物の防除
- ウイルス病を媒介するアブラムシ類、アザミウマ類、ウンカ類、コナジラミ類、ダニ類などを農薬や天敵等で防除することによって、ウイルスの感染を防ぐことができます。
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2. 抵抗性品種の利用
- 品種改良によって、ウイルス病に強い抵抗性品種が作出されています。これらの抵抗性品種を栽培することで、ウイルス病の感染や被害を防ぐことができます。
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3. 弱毒ウイルスの利用
- 弱毒化したウイルスをあらかじめ植物に接種しておくことによって、近縁のウイルスの感染や増殖を防ぐことができます。
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4. ウイルスフリー株の利用
- ジャガイモ、ニンニク、イチゴなど栄養繁殖性の農作物は、生長点培養等によりウイルスを除いた苗(ウイルスフリー化苗)を生産できます。
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5. 農器具の消毒
- 乾熱滅菌処理や第三リン酸ナトリウム等の薬剤を用いて剪定ハサミ等の農器具を消毒することで、器具に付着したウイルスを不活性化できます。