一家に1枚「ウイルス」

人類との関わりの歴史

人類が初めて根絶したウイルス感染症

天然痘と天然痘ウイルス

天然痘(痘瘡)は、伝染力、罹患率、致命率の高いウイルス感染症として古くから知られています。日本古代においても天然痘だと考えられる感染症の流行が度々起こっていた記録が残っており、近代においても明治時代には年間2万人から7万人程度の患者が発生する規模の流行が6回発生しています。第二次大戦後の1946年にも18,000人程の患者数の流行がみられこの間約3,000人が死亡しましたが、天然痘ワクチンの緊急接種などが行われ、1956年以降国内での発生は見られていません(1)。
天然痘は天然痘ウイルスの感染によって引き起こされます。天然痘ウイルスは200〜300nmのエンベロープを有するDNAウイルスで、オルソポックスウイルスに分類されます。オルソポックスウイルスには、天然痘ウイルスの他に、牛痘ウイルス、エムポックス(サル痘)ウイルス、ワクシニアウイルスなども分類されています。低温・乾燥に強く、アルコール・ホルマリン・紫外線で容易に不活化することができます(1)

写真提供:国立予防衛生研究所/現 国立感染症研究所(この写真は根絶宣言前の1974年に撮られたものです):画像
写真提供:国立予防衛生研究所/現 国立感染症研究所(この写真は根絶宣言前の1974年に撮られたものです)

天然痘ワクチンの開発

天然痘の予防法の発明は、今に続くワクチン開発の原点です。イギリスの開業医、エドワード・ジェンナーが天然痘の予防法として、ワクチンの先駆けである種痘法を発明したのは1796年のことです。詳しくは「種痘とワクチン」のページをご覧ください。

天然痘の根絶

1958年、世界天然痘根絶計画が世界保健機関(World Health Organization; WHO)の総会で可決されました。当時、世界33カ国に天然痘は常在し、発生数は年間約2,000万人、死亡数は年間400万人と推計されていました。ワクチンの品質管理、接種量の確保、資金調達などが行われ、常在国での100%接種が当初の戦略として取られました。しかし後に、徹底的に患者を見つけ出し患者周辺に予防接種を行う「サーベイランス・封じ込め作戦」に戦略を変更しました。その効果は著しく、1978年の患者発生の報告を最後に地球上から天然痘の発生の報告はなくなり、1978年から2年間の監視期間を経た1980年5月、WHOは天然痘の世界根絶宣言を行いました。以降、現在までに患者の発生の報告はありません(1、2)。