研究紹介
「ホーム」で示した研究方針に基づき、私たちの研究室では次の3つのプロジェクトを進めています。
- 薬理トランスオミクス
- 免疫細胞における代謝リプログラミング
- 次世代トランスオミクスの技術開発
1. 薬理トランスオミクス
化合物ベースの既承認薬のうち、ターゲットとする組織における薬理作用の全貌が、メカニスティックな多階層ネットワークとして解明されているものはごくわずかです。そこで、その全容解明にトランスオミクスを応用し、特に代謝に作用する薬剤の作用を多階層ネットワークとして理解することを目指します。さらに、薬剤に応答する多階層ネットワークを「地図」として、薬力学的相互作用(同じ作用部位における薬剤同士の協調・拮抗)する薬剤を合理的に探索する実証研究を行います。
図1. トランスオミクス解析による薬剤の作用機序解明
上段:薬剤を投与した対象から目的組織の試料を調製
中段:取得した試料のオミクス計測により時系列データを取得
下段:薬剤応答ネットワークを再構築し、部分的にしかわかっていない作用機序の全容を解明する
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2. 免疫細胞における代謝リプログラミング
IMSのミッションとも重なる免疫、恒常性、老化等の分野で共通して見出されている細胞内代謝経路の切り替え現象、「代謝リプログラミング」に着目し、そのメカニズム解明にトランスオミクスを応用します。免疫反応に伴って起こることが知られている免疫細胞の代謝リプログラミングを実現する生化学ネットワークの全貌を、内外の研究室と協力して再構築します。
図2. 免疫細胞における代謝リプログラミングのトランスオミクス解析
上段:免疫反応に伴って代謝経路を切り替える免疫細胞が知られている
中段:代謝状態ごとにオミクスデータを計測する
下段:オミクスデータをもとに多階層生化学ネットワークを再構築する。単階層の解析では不明だった代謝リプログラミングのメカニズムが、多階層を立体的に俯瞰することにより解明されると期待できる。
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3. 次世代トランスオミクスの技術開発
Minutesスケールで変動するメタボロームや代謝フラックス、リン酸化プロテオームと、hoursあるいはdaysスケールのトランスクリプトーム、発現プロテオーム、エピゲノムなど異なる時間スケールのオミクス階層を統合する次世代技術を開発します。さらに、代謝やシグナル伝達におけるリピドームなど、従来のトランスオミクスでは活用が進んでいないデータの統合手法を内外の研究室と協力して開発します。これにより、現在のトランスオミクス解析技術では扱えない様々な疾患や生命現象への適用範囲拡大を目指します。
図3. リピドームと他のオミクスデータとの統合
開発済みであるリン酸化プロテオームと水溶性代謝物質とのトランスオミクス(左半分)を拡張し、脂質シグナル分子と脂溶性代謝物質をそれぞれシグナル階層、代謝階層に統合する(右半分)。
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参考になる書籍
トランスオミクスの根底にはシステム生物学の考え方があります。関連書籍を紹介します。
酵素反応速度論
- 中村隆雄「酵素キネティクス」
- Sauro "Enzyme Kinetics for Systems Biology"
- Cornish-Bowden "Fundamentals of Enzyme Kinetics"
- Segel "Enzyme Kinetics"
生化学反応系全般の数理モデル
- 江口 至洋「細胞のシステム生物学」
- Klipp et al. "Systems Biology: A Textbook"
- Alon 「システム生物学入門 -生物回路の設計原理」
- Heinrich and Schuster "The Regulation of Cellular Systems"
- Fall et al "Computational Cell Biology"
- Keener and Sneyd 「数理生理学」
代謝系の数理モデル
- ステファノポーラス他「代謝工学」
- 清水和幸「細胞の代謝システム」
- Palsson "Systems Biology: Simulation of Dynamic Network States"
- Palsson "Systems Biology: Properties of Reconstructed Networks"
- Fell "Understanding the Control of Metabolism "
分岐解析・非線形力学系
- ストロガッツ「非線形ダイナミクスとカオス」
確率論的シミュレーション
- 萩谷昌己、山本光晴「化学系・生物系の計算モデル」
- Wilkinson "Stochastic Modelling for Systems Biology"
常微分方程式の数値解法
- 三井斌友「常微分方程式の数値解法」
- ハイラー「常微分方程式の数値解法」
制御理論
- 吉田勝俊「振動論と制御理論」