Projectsプロジェクト
がんの免疫細胞療法
医療イノベーションプログラム
肺がんとは
がんによる死亡数は年々上昇し、年間34万人以上の方々ががんで亡くなり、 国内の死因の第一位になっています。
(厚生労働省「人口動態統計の年間推計」2009)
がんのなかでも、肺がんは、死亡数が最も高く(2008年 男性 48,610人、女性18,239人)、 部位別のがんの死亡率でも男性で1位、女性で2位となっています(国立がんセンター がん対策情報センター)。
とくに肺がんの特徴は、手術後約50%の患者さんで肺内に再発が見られることです。 手術前にすでにがん細胞が、肺の至る所に転移していると考えられます。 したがって、肺がんを効果的に治療するためには、これら肺内転移しているがん細胞を殺す治療法の開発が望まれています。
どんな治療法を開発しているの?
理研IMSは千葉大学と連携し、NKT細胞というリンパ球の一種を標的にして肺がんを治療する、免疫細胞療法を開発しています。 NKT細胞は強力な免疫増強(アジュバント)作用を持ち、免疫系の他の細胞も動員して、がん細胞を殺す働きをします。したがって、NKT細胞を標的とした免疫細胞療法を、アジュバント免疫細胞療法ともいいます。
どんな効果があるの?
例えば、マウスによる治療実験では、メラノーマというマウスがん細胞を注射すると 1週間で肝臓に無数のがんが転移します。この時点で、NKT細胞を活性化する 「アルファ・ガラクトシルセラミド」という物質を免疫細胞の一種の樹状細胞にとりこませて投与すると、 転移したがんが完全に消失しました(下の図)。治療をしなかったマウスの肝臓は、転移したメラノーマ 細胞で真っ黒になっています。
このように転移しているがん細胞を排除することが可能な免疫療法が注目されています。動物実験の結果をふまえ、 千葉大学と連携して肺がん治療を目的とした臨床研究を進めています。
どんな治療成績?
アジュバント免疫細胞療法は、肺がんの患者さんの静脈血から免疫細胞を取り出して、シャーレで培養し、 「アルファ・ガラクトシルセラミド」という 生体内のNKT細胞を活性化する物質(糖脂質)を取り込ませて、再び患者さんの体内に戻す治療法で、外来で治療することが可能です。
これまでに、17名の進行肺がん患者の方々(第IIIB、IV期あるいは再発症例)にご協力いただき、 第1相・第2相臨床試験を終了しました。平均余命6ヶ月と言われる標準治療終了後の進行期肺がんあるいは再発肺がんの場合で、 免疫反応の得られた60%の患者さん(10例)の生存期間中央値は31.9ヶ月で、症例全体でも生存期間の延長(19ヶ月)が認められました。 この結果は症例数が少なくまだ研究段階の成績ですが、これはアジュバント免疫細胞療法が有効である可能性を示しています。
右図の患者さんの例では、13ヶ月を過ぎても、がんが大きくならず、転移や再発もなく、胸水の貯留も認められません(矢印が肺がん)。
現在は、肺がんの手術後の再発に、この治療法が有効か否か調べる第2相臨床試験がスタートしています。
また、肺がんの他に、頭頸部がんの第1相・第2相臨床試験も進めており、これまでに腫瘍縮小効果を確認しています。
今後も、治療手術後の再発抑制、患者さんのQOLの向上を目指して開発研究を進めて参ります。
- 2012年3月12日
- 国立病院機構と理化学研究所が包括的な連携協定を締結 プレスレリース