転写制御構造生物学研究チーム

研究紹介

 

クロマチン内での転写
ヒトを含む真核生物では、ゲノムDNAは、ヌクレオソームを基本単位とするクロマチン構造をとって細胞の核内にコンパクトに収納されています。遺伝子の転写を司るRNAポリメラーゼII (RNAPII) は、クロマチン化されたDNA上を進みながら塩基配列を読み取り、RNAを合成します。興味深いことに、RNAPIIは、その際にクロマチン構造を破壊せず、維持しながら転写を行うことができます。この巧妙な仕組みは、RNAPIIやヌクレオソームに結合して転写を助けるさまざまな因子によって支えられています。私たちは、ヌクレオソームを転写中のRNAPII複合体を再現し、その構造をcryo-EMで解析することで、クロマチン内での転写の仕組みを明らかにしてきました。転写中のRNAPIIは、複数の因子の助けを借りて、ヌクレオソームを一旦解体し、背後で組み立て直すことで、クロマチンを通過できることを明らかにしました。さらに、転写に伴って活性ヒストン修飾が導入されるメカニズムを解明し、転写とエピジェネティクスのクロストークを構造レベルで可視化することに成功しました。

 

•    転写中にヌクレオソームに化学修飾を導入する機構を解明   -RNAポリメラーゼIIはヌクレオソームを通過中に修飾する-
•    遺伝子の発現とクロマチン構造の維持を両立させる仕組み  -RNAポリメラーゼはヌクレオソームを壊して組み立てる-
•    コンパクトなDNAをスムーズに転写する仕組み   -ヌクレオソームを乗り越える転写伸長複合体の構造解析-
•    真核生物での遺伝子読み取りの仕組みを解明
•    転写中のRNAポリメラーゼIIの構造を解明   -細胞内で働いている巨大複合体の姿を明らかに-

 

プロモーター近傍での転写制御
ヒトを含む後生動物の遺伝子発現において、転写を開始したRNAPIIは、一般に、転写開始点の20-60塩基対下流の領域で転写を休止します。この現象はpromoter-proximal pausing (プロモーター近傍での転写休止)と呼ばれ、正常なRNAプロセシングや胚発生の制御等において重要です。転写休止には、NELFやDSIFといった負の制御因子に加えて、転写開始点直下の最初のヌクレオソーム(+1ヌクレオソーム)が関与していることが知られています。ヌクレオソームDNA上で転写を休止したRNAPII複合体を再構成し、その構造をcryo-EMで解析することで、負の制御因子と+1ヌクレオソームがプロモーター近傍の休止状態を確立するメカニズムを明らかにしました。
 

•    RNAポリメラーゼに一時停止を守らせる仕組み -転写開始直後の遺伝子発現チェックポイント機構を解明- 

 


転写終結制御
転写の最終段階では、転写終結点にさしかかって減速したRNAPIIに転写終結因子がリクルートされ、転写終結(DNAからのRNAPIIの解離)が起こります。酵母のRNA分解酵素Rat1は、RNAを分解しながら転写中のRNAPIIに「魚雷」のように衝突して転写終結を引き起こすと考えられてきました。転写終結直前の複合体を再現して構造決定することで、この「魚雷」メカニズムを明らかにしました。Rat1は、RNAPIIのRNA排出口付近に結合してRNAの5’末端をその活性部位に取り込んでおり、RNAを引き抜くことで転写複合体を不安定化し、転写終結を引き起こすことが示唆されました。また、細菌の転写終結因子であるRNAヘリカーゼRhoが結合した転写複合体の構造解析にも成功し、真核生物と細菌の転写終結メカニズムの類似性を見出しました。
 

•    真核生物での遺伝子の読み取りが終わる瞬間を捉える  -転写終結因子が結合したRNAポリメラーゼⅡの構造を解明-  
•    遺伝子の読み取りを終わらせるメカニズム  -転写終結因子が結合したRNAポリメラーゼの構造を解明-
 

 

ウイルスの複製機構
デングウイルスは、蚊によって媒介されるRNAウイルスで、デング熱やデング出血熱などのデングウイルス感染症を引き起こします。世界人口の約半数にデングウイルス感染症のリスクがあると推定されますが、現在のところ有効な治療薬は実用化されていません。デングウイルスは、感染細胞内で、NS5とNS3というタンパク質を使ってそのRNAゲノムを複製し、増殖します。私たちは、NS5やNS3がRNAに結合して形成する複数の複合体の構造解析に成功し、RNA複製の仕組みを明らかにしました。これらの構造情報は、今後構造に基づく医薬品設計の基盤となることが期待されます。
 

•    デングウイルスのRNA複製酵素の立体構造を解明   -抗ウイルス薬開発の基礎に-
 

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