細胞機能変換技術研究チーム

研究紹介

 

 DNAのメチル化は遺伝子発現を制御する重要なエピゲノム修飾で、細胞種ごとに特異的なDNAメチル化プロファイルを持っています。しかしながら、各種細胞が持つ固有のゲノム領域特異的なメチル化プロファイルが何によって形成されるのかは良くわかっていませんでした。我々は血液細胞分化に重要な転写因子RUNX1が、RUNX1結合部位周辺のゲノムDNAを脱メチル化することを見出しました。また、iPS細胞が肝臓細胞へ分化する過程においてDNAメチル化を含むオミックス解析を行ったところ、転写因子GATA6が分化初期にDNA脱メチル化を誘導していることが明らかとなりました。すなわち、ある種の転写因子はゲノムDNAに結合して下流の遺伝子の転写を制御するのみならず、ゲノムDNAのメチル化状態も制御していることがわかってきました。そこでDNAメチル化状態を制御する転写因子を同定する手法を開発して、細胞分化に重要ないくつかの転写因子を調べたところ、15個中9個の転写因子にDNA脱メチル化誘導能があることがわかりました。さらに、DNAのメチル化状態を制御する転写因子の系統的な解析研究を進め、公開されているDNA メチル化データからDNA脱メチル化誘導能を持つ転写因子を推測し、これを検証することによって約30個のDNA脱メチル化誘導能を持つ転写因子を新たに同定しました。

 

 これらの研究と並行して、DNAメチル化制御因子の異常を切り口とした疾患発症メカニズムを解明する研究も行っています。転写因子RUNX1に人為的に変異を加えてDNA脱メチル化誘導能を持たなくしたとき、血球系細胞分化にどのような影響があるのかを調べています。また、RUNX1変異が引き起こす骨髄増殖性腫瘍や骨髄異形性症候群の疾患発症メカニズムをDNAメチル化制御の観点から調べています。さらに、転写因子のDNA脱メチル化誘導を担うTETと呼ばれる酵素をノックアウトし、引き起こされる血球系細胞分化の異常を詳細解析しています。

 

 さらに、細胞自身に内在する転換プログラムである上皮間葉転換(EMT)とその逆の間葉上皮転換(MET)について、オミックスデータを駆使したメカニズム解明研究も行い、得られた知見を、ガンを始めとする疾患の理解につなげる試みを行っています。また、生殖細胞の分化メカニズムの詳細解析も行っています。