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免疫系ヒト化マウス

過去10年間のDNAシーケンス解析によって、悪性腫瘍では個々の患者に特異的な複数の体細胞変異が見られることが解ってきました。患者に発生したがん・白血病細胞は、複数の遺伝子異常を持っており、その中のどれが疾患の発症に重要であるかを理解することが難しく、新薬の開発が困難でした。白血病でも、一つの染色体異常で発生する慢性骨髄性白血病と異なり、急性骨髄性白血病(acute myeloid leukemia :AML)では、患者ごとに異なる遺伝子の異常が複数存在することが明らかにされています。私たちの研究では、幹細胞研究、変異の検出と解析の研究、遺伝子発現の制御に関する研究など、異なる分野の専門家がHumanized mouseという疾患再現のモデルを用いながら、マルチオミクス解析を用いて疾患病態の本質に迫ってきました。

まず、遺伝的スクリーニングとケミカルスクリーニングを組み合わせることで、白血病細胞が生存や増殖に必要な鍵となる分子を発見しました(BIRC2/4、 BCL2、 MCL1、 AURKB、KIF10 )。中でも、複数の体細胞変異と染色体異常を持つ患者由来の白血病細胞において、BIRC2/4の働きを阻害したところ、白血病細胞を効率よく死滅させることを見出しました。さらに、患者白血病細胞を免疫不全マウスに輸注することで疾患を再現(白血病 Humanized mouse)し、治療実験を実施しました。個々の患者において最も感受性が高かった2種類の分子標的薬を白血病のHumanized mouseにしたところ、患者白血病細胞が骨髄と脾臓から完全に消滅し、正常な造血細胞が回復する強い治療効果が確認できました。以上のように、白血病の遺伝子変異の検出や遺伝子発現の解析など、複数の遺伝学的手法をHumanized mouseと融合させることにより、個々の患者に最も適した薬剤を選定することができました。将来、このような個別最適化医療を臨床現場で実施できるようにすることが私たちの目標です。



免疫系ヒト化マウス

図:
A:抗ヒトCD45抗体を用いて免疫組織化学染色した骨髄断面の全組織標本。左:対照群(治療なし)。右:実験群(AZD5582とABT199による治療を実施)
B:抗ヒトCD45抗体を用いた免疫組織化学染色とHE染色の、低倍率および高倍率拡大画像。上段:CD45免疫組織化学染色。下段:HE染色。

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