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生命医科学研究センターにおける新型コロナウイルス感染症プロジェクト

2019年末よりSARS-CoV-2による新型コロナウイルス感染症2019(COVID-19)が猛威を振るいパンデミックを引き起こしました。突如として出現し広汎に伝搬したSARS-CoV-2は、2020年末現在も国際保健および世界経済を脅しています。SARS-CoV-2に対する新しいワクチンは、間もなく多くの国々で使われ始める見通しですが、それでもなおSARS-CoV-2の拡散を防ぐ新たな方法の開発は急務です。現在、生命医科学研究センター(IMS)では、以下のように複数の研究グループが、COVID-19の診断技術ならびに治療薬の開発を進めています。

診断技術・バイオマーカー分野では、臼井グループが「SmartAmp法」という等温核酸増幅法を基に、独創的なSARS-CoV-2検出キットを開発しました。このキットの有用性は、実際に2020年2月にダイヤモンドプリンセス号内で新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の集団発生が発生した際の感染者(乗客)から分離されたSARS-CoV-2のゲノムRNAを用いて立証され、2020年8月に医薬品医療機器総合機構により承認されました。

桃沢グループは、免疫関連遺伝子の個人差がCOVID-19の重症度を決定する因子になると考え、バイオマーカーを探索しています。このような個々人の特徴を特定することで、COVID-19が多様な臨床像を示すメカニズムを解明できると期待できます。また、このグループは国際コンソーシアム:COVID Human Genetic Effortに参加しており、COVID-19患者の全ゲノムシーケンス解析ならびにターゲットシーケンス解析を実施しています。

COVID-19治療薬を担当している研究グループの多くがヒトに感染する7種類のコロナウイルスのうち、病原性が高いSARS-CoV-2を標的としており、そのうち複数が理研の創薬・医療技術基盤プログラムと共同研究を進めています。宮内グループは、既にインフルエンザウイルスに対する中和抗体を研究し、インフルエンザウイルス感染により、広域中和抗体がリンパ濾胞型ヘルパーT細胞(TFH細胞)依存的に誘導されることを報告しました。この知見に基づき、このグループはSARS-CoV-2に対するモノクローナル抗体(mAb)の開発を進めています。現在までに、SARS-CoV-2のスパイク蛋白とインフルエンザウイルスを同時接種したマウスのリンパ節B細胞から、抗SARS-CoV-2抗体を産生する多数のハイブリドーマ・クローンを作成することに成功しました。

齊藤グループは、ウイルスが宿主細胞へ侵入する時に働く分解酵素TMPRESS2に対する様々な中和抗体を研究しています。TMPRESS2に対する小分子阻害剤がSARS-CoV-2感染を阻止することから、TMPRESS2はSARS-CoV-2の細胞侵入に不可欠だと考えられます。しかし、これらの小分子阻害剤には副作用があるため、このグループではTMPRESS2 mAbがより特異的に感染を抑え得ると考え、創薬抗体基盤ユニットとしてSARS-CoV-2感染を阻止するヒトTMPRESS2 mAbの開発をめざしています。

福山グループは、慶応義塾大学との共同研究で、治療に応用可能な複数のヒトモノクローナル抗体をCOVID-19患者から既に取得しています。また、ビタミンD3をワクチンアジュバントとして利用できることを示しました。ビタミンD3パスウェイを制御することで、より安全なCOVID-19ワクチンを開発できると期待されます。

藤井グループは、がんに対する人工アジュバントベクター細胞(aAVC)システムを既に構築し、現在このシステムをCOVID-19に応用できるように開発を進めております。そして、SARS-CoV-2由来の抗原を発現するaAVC(aAVC-CoV-2)を構築しました。今後は、コンセプトの証明としてaAVCによる抗ウイルス細胞傷害性T細胞の誘導および抗SARS-CoV-2抗体の産生を検証する実験を、ワクチン接種した動物を用いて進めていきます。

表1に、IMSにおけるCOVID-19関連の診断技術・治療法・ワクチン開発に関する最近の進展をまとめています。

IMSにおけるCOVID-19関連の診断技術・治療法・ワクチン開発に関する最近の進展

表1. IMSにおけるCOVID-19関連の診断技術・治療法・ワクチン開発に関する最近の進展

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