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主要組織適合抗原複合体の量を調節する酵素を発見

2007年01月25日 PRESS RELEASE

病原体等の抗原が体内に侵入すると、抗原提示細胞が抗原を取り込み、それを処理してクラスII主要組織適合抗原複合体 (MHC II) とともに細胞表面に提示します。その提示によって、免疫担当細胞であるT細胞が機能を発揮し、病原体等の抗原が排除されます。すなわち、MHC IIは細菌等の病原体に対する防御の司令塔です。従って、MHC IIの量を調節する仕組みは、免疫反応を理解する上で極めて重要です。

理研免疫・アレルギー科学総合研究センター(谷口克センター長)の感染免疫応答研究チーム(石戸 聡 チームリーダー)は、酵素「MARCH-I」がMHC IIをユビキチン化により速やかに破壊し、そのタンパク量を減少させることを発見しました。「MARCH-I」がMHC IIの量を調節することを明らかにしたことになります。本研究は、THE EMBO JOURNALに2007年1月25日付けでオンライン先行掲載されました。

MARCH-Iは、ユビキチン化を行なう酵素の一つで、抗原提示細胞に多く発現しています。研究チームは、MARCH-Iを遺伝的に欠損したマウスを作成し、抗原提示細胞表面のMHC IIの量が増加していることを発見しました。また、MARCH-Iを欠損したマウスではMHC IIのベータ鎖と呼ばれる部分がユビキチン化されていなかったことから、MARCH-Iは、MHC IIのベータ鎖をユビキチン化する働きをもつことがわかりました。さらに、MHC IIはMARCH-Iによりユビキチン化を受けることで、リソソームといった蛋白を破壊する小胞に送られること、ユビキチン化を受けない場合には、細胞表面に戻る小胞に送られるために抗原提示細胞表面のMHC IIの量が増加することがわかりました。

これまで、MHCは自己免疫疾患に深く関ることが知られてきましたが、そのメカニズムに関してはまだほとんど分かっていません。本研究では、抗原提示細胞表面のMHC IIの量をユビキチン化によって制御する酵素を明らかにしました。このような酵素の発見は、免疫反応の仕組みを理解する上で非常に興味深く、免疫応答を制御する上で重要なヒントを与えるものと考えられます。

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図:MHC class II (MHC II)はMHC II compartment (MIIC)と呼ばれる小胞にいったん蓄えられ、そこから細胞表面に輸送される。 細胞表面においてE3ユビキチンリガーゼであるMARCH-IがMHC IIに結合し、MHC IIのβ chainの225番目のリジン残基にユビキチン(Ubi)を結合させる。β chainがユビキチン化されたMHC IIは、細胞表面にとどまる事が出来ず、リソソームと呼ばれるタンパク質を分解する小器官へ輸送され、分解される。

論文:http://www.nature.com/doifinder/10.1038/sj.emboj.7601556