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乳がん治療薬の副作用に関連する遺伝子多型を発見

2010年09月28日 PRESS RELEASE

―オーダーメイド医療の実現に向けた、個人ごとの最適な投薬法の確立へ大きく前進―

  • ゲノムワイド関連解析(GWAS)により、14番染色体上に乳がん治療薬の副作用に関連する複数の遺伝子多型を発見
  • リスク型の遺伝子多型を持つ人では、骨筋肉系副作用の発症リスクが2倍以上
  • 国際薬理遺伝学研究連合(Global Alliance for Pharmacogenomics:GAP)※1による初めての論文成果

独立行政法人理化学研究所(野依良治理事長)ゲノム医科学研究センター(鎌谷直之センター長)と米国国立衛生研究所(National Institutes of Health:NIH)薬理遺伝学研究ネットワーク(Pharmacogenetics Research Network : PGRN、スコット・ワイス議長)※3は、乳がん治療薬であるアロマターゼ阻害剤が引き起こす骨筋肉系副作用の起こりやすさに関連する遺伝子多型を発見しました。これは、理研ゲノム医科学研究センターと米国薬理遺伝学研究ネットワークが共同で実施している国際薬理遺伝学研究連合(Global Alliance for Pharmacogenomics:GAP)による研究成果です。

この成果は、国際薬理遺伝学研究連合 から発表される初めての研究論文となります。この国際研究連合は、理研ゲノム医科学研究センターとNIHファーマコゲノミクス研究ネットワーク(NIH Pharmacogenomics Research Network :PGRN)※3 双方の研究能力・資源を有効に活用し、共同研究やフォーラムの開催等を通じた連携・協力により個人ごとの遺伝子の違いと薬物の治療効果や薬物のもたらす副作用との関係を明らかにすることにより、個人ごとの遺伝情報に応じたオーダーメイド医療の確立に貢献することを目的として、2008年に創設されました。

米国では、乳がんの再発防止を目的として、数万人のエストロゲン感受性乳がんを持つ閉経後の女性にアロマターゼ阻害剤が投与されています。しかし、その1/4の患者さんには骨筋肉系副作用として関節痛などの症状が現れ、中には激しい痛みのため、延命になるはずのアロマターゼ阻害剤の服薬を中止せざるをえない場合もあります。

研究チームは、乳がん摘出手術後にアロマターゼ阻害剤を服用している閉経女性878症例のゲノム情報を比較しました。アロマターゼ阻害剤による骨筋肉系副作用を生じた293例と生じなかった585例のサンプルを用いてゲノムワイドSNP関連解析を行い、第14番染色体に位置している4つのSNPがアロマターゼ阻害剤による骨筋肉系副作用の発症に強く関連していることを発見しました。この4つのSNPを持つ女性は、持たない女性と比べ、2倍以上の確率で重篤な骨筋肉系副作用を示すことが分かりました。
詳細な解析の結果、このうちの1つのSNPが、近くに存在するTCL1A遺伝子の発現量を調節していることを明らかにしました。さらに研究グループは、TCL1A遺伝子の発現量が変化することにより、関節リウマチの炎症に深く関与しているインターロイキン17と呼ばれる免疫システム関連タンパク質の産生量が変化することを見出しました。このことから、アロマターゼ阻害剤による骨筋肉系副作用は、関節リウマチと同様の分子機構によって引き起こされると考えられます。

今回の研究により、乳がん治療薬の一つであるアロマターゼ阻害剤による重篤な副作用の有無を予測することが出来るようになり、乳がん患者の副作用の軽減と最適な再発予防法の確立に向けた大変有用な研究成果と考えられます。

本研究成果は、科学雑誌『Journal of Clinical Oncology』オンライン版(9月27日)に掲載されました。

<補足説明>

※1 国際薬理遺伝学研究連合(Global Alliance for Pharmacogenomics:GAP)
理研ゲノム医科学研究センターと米国国立衛生研究所薬理遺伝学研究ネットワークおよびNIH所属の3研究機関
(国立一般医学研究所:NIGMS、国立がん研究所:NCI、国立心臓・肺・血液研究所:NHLBI)が、2008年4月に創設した国際研究連合。

2008年4月の設立時には、遺伝的要因の乳がん治療薬の有効性への影響に関する研究(本研究成果)など5件の共同研究を開始し(2008年4月15日プレス発表)、同年11月には、ぜんそく治療薬への応答性に関する研究など5件の共同研究を追加(2008年11月11日発表)、2009年12月には、うつ病などに関する研究など5件の共同研究を追加(2009年12月16日発表)、2010年5月には、ぜんそくなどを対象に4件の共同研究を追加し(2010年5月21日発表)、研究を展開しています。

プレスリリース: 国際薬理遺伝学研究連合、新たにぜんそくなど4つの共同研究を開始

※2 米国国立衛生研究所(National Institutes of Health : NIH)
1887年に設立された合衆国で最も古い医学研究の拠点機関。米国保健社会福祉省(United States Department of Health and Human Services:HHS)傘下にあって、27の研究所やセンターから構成される、基礎から臨床までの広範囲な医学研究を実施または資金援助する機関。

※3 薬理遺伝学研究ネットワーク(Pharmacogenetics Research Network : PGRN)
NIH所属の3研究機関(国立一般医学研究所、国立がん研究所、国立心臓・肺・血液研究所)が関与する研究グループの連合体。体内における薬剤の作用や薬物動態と個人ごとの遺伝子の相違との関係について研究を行い、その研究成果を臨床に応用することを目的としている。PGRNの研究者は米国とカナダの研究機関から指名される。